RIYO BOOKS

RIYO BOOKS

主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『オイディプス王』ソポクレス 感想

f:id:riyo0806:20220201222044p:image

こんにちは。RIYOです。

今回はこちらの作品です。

 

オイディプスが先王殺害犯人の探索を烈しい呪いの言葉とともに命ずる発端から恐るべき真相発見の破局へとすべてを集中させてゆく緊密な劇的構成。発端の自信に満ちた誇り高い王オイディプスと運命の逆転に打ちひしがれた弱い人間オイディプスとの鮮やかな対比。数多いギリシア悲劇中でも、古来傑作の誉れ高い作品である。

紀元前五世紀、ギリシャアテネでは毎年ディオニュソス神を祝う大ディオニュシア祭が行われ、ギリシャ神話を元にした演目を神に捧げるため、民衆参加で悲劇の競演が繰り広げられていました。

現代まで伝えられる当時に活躍した三大悲劇詩人と呼ばれる人物がいます。悲劇を確立したアイスキュロス、世相を取り入れて世に問うたエウリピデス、人間がどのようにあるべきかを訴えたソポクレス(ソフォクレス)です。

本作『オイディプス王』はギリシャ悲劇において最高傑作と名高い作品です。


この時代のギリシャは「知」が結集され、ヨーロッパの知的文化の礎を固めていきます。文化が深まるにつれ「知」が万人の人生にとって重要なものと認識され研究も進んでいきます。哲学者ソクラテスプラトンが活躍し、世の中は「知」に信頼を寄せ、追求し、多くの研究を世に残しました。

その風潮にあった世の中へソポクレスは『オイディプス王』で「知の恐怖」を描きます。


「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か。」

スフィンクスの有名な謎により苦しめられていた国はオイディプスにより解放されます。その功績で国王となりましたが、国は病と飢饉に襲われます。ご神託に救いを求めると「国にある穢れを払え」と命ぜられます。穢れとは「前王を殺害した犯人」のことでした。

前王ライオスは「自身の子に殺害される」と神託を受けていたため、妃ともうけた子を従者へ指示して始末するよう申し付けていました。しかしこの従者は生まれて間もない子供を憐れに思い、隣国の子を持たない王へと託します。やがて青年となった子は奇しくもライオスが治める国へと向かうのでした。


あらすじから察せられる悲劇がこの作品の主題です。民の代表者が、オイディプス王に世を救うための助力を乞う謁見の場面から始まります。「前王の殺害者は誰か」の問いにオイディプスは清廉な心で追求し、怒りを覚え、解決しようと尽力します。しかし真実が徐々に明るみに出て、占師による告白で状況が一変します。


オイディプスが直面する悲劇は壮絶なものです。これをどのように受け止め、どのように振る舞い、どのように行動へ移すか、人間が「どうであるべきか」を真に訴えています。

悲劇は神話を元にして描かれています。当時の人間が「生きるうえで抱える問題」を、神的情景に委ねて語られます。ここにソポクレスは心の美醜を描き、それでも運命を受け入れることを求めます。知ることにより襲われる怖さ「知の恐怖」を作品で示し、世に広まっていた「知」への絶対的な信頼へ警鐘を鳴らしたのでした。


ああ!知っているということは、なんというおそろしいことであろうかーー知っても何の益もないときには。

神々の名にかけてたのむ、知っていることがあるのならば、どうかそっぽを向かないでくれ。われらみな歎願者となって、おんみの前にこうしてひざまずいているものを。


本作の戯曲構成は、当時の常識的なアイスキュロスが構築した三部作形式から脱却し、一部単作で仕上げられています。また演じる役者を二名から三名に人数を増加させ、物語の核を詳細に描くとともに濃密な臨場感を演出しました。そしてこの戯曲内では「肝心な出来事そのもの」は描かれません。ご神託や過去に起こったものなど、伝え聞くことだけで構成されています。「知の探究」は神から告げられる、或いは人伝に聞く、という行為を表現して当時の世相を表しています。その技法だからこそ、最期のオイディプス自傷する行為が鮮明な印象を与え、世に問う力を強めます。まさに当時の悲劇形式を改革したと言えます。

たしかにアリストテレースは、オイディプースのような人物が、本来「不幸に値しない」にもかかわらず不幸におちいることを認めている点に、神(偶然)が入り込むわずかのすき間(悲劇的不安定の世界)を残している(もしすべての出来事がありそうな仕方で、あるいは必然的な仕方で起こるなら、「不幸に値しない者」が不幸におちいるはずはない)。しかしながら、神(偶然)のような不合理な要素を「劇の外」におくのでなければ、悲劇は人間の行為を統一的に再現するものではなくなる、との考えがアリストテレースの悲劇理論の根幹にある。

詩学』解説 岡道男


オイディプス王』に盛り込まれた「憐みと恐れ」は、読む者の心を掴み、安堵と恐怖を繰り返します。告げられる神託と明るみになる事実が演目が進むにつれ激しく交差していきます。真実を前にしたオイディプス王がどのように運命を受け止め、どのような感情を表すのか、未読の方はぜひ体感してください。

では。

 

privacy policy