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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『三文オペラ』ベルトルト・ブレヒト 感想

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こんにちは。RIYOです。

今回の作品はこちらです。

 

現代の演劇に革命的な影響を及ぼしたベルトルト・ブレヒト。その代表作とも言える異化演劇の源として関心が寄せられる名作『三文オペラ』です。

ドイツの劇作家ブレヒト(1898-1956)が音楽家クルト・ワイルと組んで、オペラの革新、戯曲と音楽との新しい結合を試みた作品。ロンドンの警視総監と結んだ盗賊のマクヒィスが、多くの冒険ののち、絞首台に上るかわりに爵位と褒賞を授けられるという皮肉なテーマを展開、「裕福に暮す奴だけが安楽に生きられる」社会を徹底的に批判した。

 

この脚本はイギリスのジョン・ゲイ(1685-1732)が執筆した『乞食オペラ』を改作したものです。当時のイギリスはバブルの語源ともなっている「南海泡沫事件」により、汚職と詐欺に塗れた時代でした。国が利益をもたらす為に流す噂や、インサイダー取引により国民の鬱憤は募っていました。この舵をとっていた国政を強く批判した作品が『乞食オペラ』です。

そして200年後にブレヒトは、ドイツ帝国成立によるバブル期に、状況が重なる国民の負担を訴える作品としてジョン・ゲイの作品を改作し『三文オペラ』を書き上げます。そしてブレヒトは、この作品に込めた思いが、どのように演じれば最も観客に伝わるかを考え抜きます。

 

異化とは何よりもまず、観客が自分の頭を働かすように訴えることである。そうすることによって観客は、自分が見るものを受け入れることに次第に責任をもつようになり、大人の目で見てもっともらしいものだけを受け入れるようになる。劇中の中では人はすべて子供にかえるなどというロマンティックな考え方を、ブレヒトは斥けるのである。引用元:なにもない空間

ピーター・ブルックはこのように述べています。当時のドイツ演劇はリアリズムに傾倒した自然主義的演劇や、芸術性を強調させたオペラ演劇が主となっており、「直截的」に物語を伝えて感情を揺さぶる性質のものでした。しかし、ブレヒトが生み出した「異化効果」は物語を俯瞰的に捉え、演劇を通して伝わる思想や哲学を強制的に観客へ伝える手法です。これは『三文オペラ』に含まれている「社会風刺」を中心に伝えたいという考えから、物語の流れに観客の感情が引っ張られず、演劇全体の社会性を伝える為に生まれました。

 

三文オペラ』の初演は歴史的成功を収め、瞬く間にブレヒトの名は世界中に轟きました。この成功は、前述の異化効果により直接的に観客へ訴えた社会風刺の賛同が根源となっており、当時の民衆における鬱憤や不幸を、劣悪な社会が起因であるという同調的感情から大喝采を浴びることになりました。

事実、当時の政治的危機にあるドイツにおいてナチス勢力が拡大している中、民衆へ与えられていた神聖で奇跡溢れる輝かしい演劇は、観客を白けさせて反感を買っていました。そこに台頭してきた『三文オペラ』が力強く歓迎されたことは、実に真っ当な結果であると見ることができます。

 

三文オペラ』の根本思想は、ブレヒトも言っているように、「泥棒はブルジョアだが、ブルジョアは泥棒か?という方程式」である。異化効果をもちいてーーつまり、世界を暗黒外におきかえることによってーーブルジョア社会に鏡をかかげ、ブルジョアの情意生活や道徳が、追剥や淫売の情意生活や道徳と同じであることを曝露し、「裕福に暮らす奴だけが楽しく生きられる」この世界のすべての人間関係の事物化と資本化を批判することである。

訳者の千田是也さんはこのように解説で述べています。そして肝心の泥棒マクヒィスの愛称は「匕首のマック」。現代ジャズのスタンダードになっている、本作の有名な曲のタイトルでもあります。

ドイツでは「匕首伝説」という言葉があります。これは第一次世界大戦争でドイツが「背中に匕首をさされて」敗北したことを指しています。戦争末期に戦況が傾いてきている時に内乱が起こり、それが原因で敗北したという考えのものです。つまり「匕首マック」ことマクヒィスはドイツそのものとして見る事ができ、それを当てはめてこの物語を読み進むと、恐ろしいほどに直接的に国政を批判していることを見て取ることができます。

 

当時の腐敗した国政と、それに苦しむ民衆、そしてその社会性の恐ろしさを軽妙に描いたこの作品は魅力に溢れています。

未読の方はぜひ、読んでみてください。

では。

 

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