RIYO BOOKS

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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『ビュビュ・ド・モンパルナス』シャルル=ルイ・フィリップ 感想

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こんにちは。RIYOです。

今回はこちらの作品です。

 

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ドストエフスキーの肖像を掲げ、その作風のように激しく当時のフランスを生きたフィリップ。35歳という短い人生の中で生み出した、美しいプロレタリアート文学の代表作『ビュビュ・ド・モンパルナス』です。

舞台はパリの下町。主人公は売笑婦とごろつき。これほど下層社会を美しく愛情をこめて描いた作家はいない。心清まる作品である。

 

シャルル=ルイ・フィリップは、1874年のフランスに、あまり裕福ではない家庭で生まれました。大変優秀な頭脳を持ちながらも生まれつき病弱で、学業も思い通りに進めることができませんでした。当時の社会芸術活動を推進し、ロシア黄金時代(トルストイドストエフスキー等)の影響を受けた作家として執筆を始めます。彼の作品はプロレタリアートの中に沈み、理解し、美しく書き上げるという筆致で、ジロドゥも称えたほどの芸術性でした。

 

本書『ビュビュ・ド・モンパルナス』では、「七月十四日祭」の描写が随所に描かれます。これは「パリ祭」のことで、フランス革命が成ったことを祝う建国記念日とされている日の祭りです。いわゆる資本主義革命であり、過去の封建的な領主社会を崩壊させ、各人の身分や人権を重要視することを目的とした出来事でした。元々、絶対の国王権力とそれに付随する貴族たちが、民衆へ生活さえも困難にさせる徴収を行い、搾取を繰り返していた社会に対して、1789年7月14日から始まった革命運動で王政が崩壊し共和国となりました。

 

1901年に出版された『ビュビュ・ド・モンパルナス』で描かれる下町の写実的なプロレタリアートの社会は、フランス革命のマイナス効果とも言える「資本主義の被害者」たちが、苦難の日々に耐えながらも活力を見出して暮らしています。売笑婦、ごろつき、貧民たちの生々しい描写は、革命による恩恵をまったく感じさせません。しかし、そこに生きる人々は生命力に溢れ、その社会さえも美しく感じさせるフィリップの表現は、読後も余韻を残してくれます。

 

あだ名「ビュビュ・ド・モンパルナス」ことモーリスはごろつきで、売笑婦のヒモですが、物語の主人公はその売笑婦ベルトと、その恋相手ピエールで描かれます。貧困層の中にある「誇り」と「感情」が、肉体の結びつき以上に交わることが困難であることを教えてくれます。

とはどんなものかよく知っていた。お金に換算すべきものだと知っていた。色體をぐったりさせるが、元氣をつけてくれるのはお金だからだ。ベルトはこうしたことを二十の年に知りつくした。

 

この悲劇的な物語は、確かに読者の感情を振り回しますが、一貫して描かれている内容は「プロレタリアート社会の在り様」であり、その社会の具現化されたかのような人物こそモーリスである為、題名が『ビュビュ・ド・モンパルナス』であると考えられます。

この社会を美しく描いたフィリップの心情には、ひとつのエピソードが背景にあります。彼は1898年のパリ祭翌日、ある娼婦と出会って恋をしています。そしてその事を或る手紙で告白しています。

彼女は造花工なので、花のように繊細なところをもっているが、またパリ女だからいくらか腐敗している。僕は彼女を導き、よいことを教え、人間の悩みと自然の事物の美しさを示してやりたいと思う。男が女を高めるのには、いくらも時間はかからない。

このエピソードを本書の訳者である淀野隆三さんは以下のように述べています。

フィリップは彼女の心を高めながら、こんどは逆に、彼女に導かれてパリの暗黑面をめぐることになった。そしてこの場末のベアトリーチェの先導から、三年をて生まれたのが、この小さい「神曲」『ビュビュ・ド・モンパルナス』なのである。

読後直後の悲痛感と、通読を振り返って感じる美しさで、神聖なほどの清らかさが胸に残る様は、まさにプロレタリアート神曲と言えます。

 

太宰治も愛したシャルル=ルイ・フィリップの代表作、心に響くものが必ずあるはずです。ぜひ、読んでみてください。

では。

 

 

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