こんにちは。RIYOです。
続いて第二部です。

第一部最終幕でのヘンリー六世とマーガレットの婚姻は、不安の影を落としながら宣言されました。本作はシェイクスピアが歴史的な人間の言動をもって普遍的な人間像を描こうとしたことからも、この展開は物語に非常に強い印象を持たせています。ヘンリー五世という強力な王権が消滅したことで生まれた国政の無秩序が、社会や国民の精神の奥深くまで蝕む様子が、この第二部でも明確に描かれています。ウィンチェスター司教の対抗相手という印象が強かったグロスターですが、第二部に入るとその愛国心と騎士道、そして清廉潔白な性質が浮かび上がります。ヘンリー六世が何かと頼りにする場面にも説得性があり、腐敗した貴族たちのなかにある良心のように感じられます。グロスターが自他ともに厳しく、そして公正な立場を貫き、イギリス治世の安定を真に願って目指していたことは、言葉の端々から伝わります。第二部の主題となる統治の崩壊は、このグロスターの生涯が象徴となって表現されています。
ヘンリー六世は、サフォークが連れ帰ったマーガレットを妃として紹介します。そしてサフォークが取り交わしたフランスとの和平条約をグロスターは受け取り、その内容を読み上げます。そこには、マーガレットと引き換えにアンジューとメーヌの土地を引き渡す内容が書かれていました。この二つの土地はヘンリー五世が多くの犠牲の末に獲得した重要な土地であったため、グロスターは憤慨し、立ち去ります。一方でウィンチェスター司教ボーフォートは、バッキンガムとサマセットを取り囲み、グロスターを摂政の立場から追いやることを画策します。また、ソールズベリーとウォリックはこの悪巧みを予期し、ヨーク公と協力して彼らの影響を抑えようと計らいます。このようななか、ヨーク公は自らの正統な王位継承権とヘンリー六世の悪政を心のなかで思い返し、王位奪還を決意します。
グロスターの妻は、貴族たちの悪政を露呈させるため、魔女と呪術師の協力を仰ぎます。しかし、これはウィンチェスター司教が手を回した策略であり、グロスターの妻が邪な儀式をもって国政を揺るがす凶賊であると吊し上げるためでした。罠に掛かった彼女は、逮捕され、罪を背負って街中を歩きながら懺悔させられます。そして、グロスターは摂政の役職を解かれますが、そのときに使者が国政の会議へ向かうように伝えます。すでに集まっていたヘンリー六世と貴族たちのもとへ、サマセットが報せを持って入ってきます。それは、イギリスがフランス領土のすべてを失ったというものでした。到着したグロスターに対し、サフォークは彼を罵り、国家に対する反逆罪で捉えるように指示します。どの貴族たちも私利私欲のためにグロスターを蹴落とそうとし、ヘンリー六世は擁護できる術を持たず、そのまま退室してしまいます。ウィンチェスター司教を筆頭とした貴族らは、どのようにしてグロスターを亡き者にするかと相談しますが、そこへアイルランドで反乱が起こっているという報せが届きます。ヨーク公が反乱鎮圧の役を受け、軍隊を与えられて対応に向かいます。しかし、王権を得るために必要であった軍隊をようやく手に入れたヨーク公は、ヘンリー六世へ反旗を翻す策略を立ててアイルランドへと出発します。
グロスターは殺し屋によって無惨な死を遂げます。サフォークがグロスターの死を告げると、ヘンリー六世は希望を失い、大きく取り乱しました。そのとき、ウォリックとソールズベリーが、グロスターの死に関して平民が怒りの暴動を起こしている旨を伝えにやってきます。グロスターの死を検証したところ、殺し屋の手によることが判明し、平民は容疑者となったサフォークの死か追放を求め、ヘンリー六世は後者を選択します。サフォークとマーガレットは、互いの愛を交わしながら、それでも離れていきました。
その直後に、呪いを受けるようにウィンチェスター司教は病に侵され、聖職者にあるまじき言葉を吐き散らし、もがき苦しみます。そして快復の見込みは無くなり、そのまま死を迎えました。一方、サフォークはフランスへの途上で、歪んだ誇りを守るがために斬首され、その首をイギリスへ送られました。
ヨーク公は、新たな反乱を仕掛けます。王位継承権を持つと自称する平民ジャック・ケイドを焚き付け、現在の王政を破壊させようとします。これに賛同した職人らで構成された平民軍は勢いを増し、中心地ロンドンへと向かいます。ロンドンでもその暴虐は振るわれますが、バッキンガムとクリフォード父が対峙し、そこで反乱軍へ言葉で諭します。ヘンリー五世の偉大な名誉と治世を思い起こした反乱軍は武装を解き、各々の土地へと戻っていきました。不利な状況を理解したケイドは、同様にもとの土地へと戻りますが、地主貴族に喧嘩を吹っ掛けて、そのまま殺されてしまいます。
そのころ、アイルランドでの反乱を鎮静化させるどころか取り込んで大きくなったヨーク軍は、武装したままロンドンへと向かいます。ヘンリー六世は、何が要求かとヨーク公へ使者を送り、サマセットが裏切り者であるため投獄すべきだという返答を受けます。ヘンリー六世は言葉だけの返事を取り急ぎヨークへ送ると、軍を解除して事なきを得ました。しかし、ロンドンへ近付いたヨーク公はサマセットが投獄されない自由の身であることを見て激昂し、ヘンリー六世は王として不適格だと罵り、自らが王権を握ると豪語します。サマセットが反抗しますが、ヨーク公の二人息子であるエドワードとリチャード、そしてソールズベリーとウォリックがヨークへの忠誠を見せると、ヘンリー六世は戦う覚悟を決めました。
リチャードはサマセット、そしてクリフォード息子をそれぞれ殺し、ヨーク軍は強い攻勢を見せます。戦況を判断したマーガレットは、ヘンリー六世を連れてロンドン内部へと逃亡します。ヨーク軍は激しい勢いをそのままに、全軍でロンドンへと入城する準備に取り掛かり、第二部は終わります。
第二部では、前述のようにグロスターが支えていたイギリスの秩序が、彼の死によって崩壊していくさまを描いています。グロスターが殺害されたことによって、それまで保たれていた秩序が見事に崩壊していきます。そして民衆を巻き込んだジャック・ケイドによる反乱で無秩序が蔓延する様子が描かれ、ヨーク公が遂に決起するという宣言で完全な内乱へと変化していきます。剛将トールボットとグロスターの死は、ヘンリー五世の遺伝子が完全に途絶えたこと、イギリスにおいて愛国心と騎士道が途絶えたことを示し、無秩序を跋扈する野心家たちの争いへと国は導かれていきます。
ああ、恵み深い陛下、いまは危険な時代です。美徳はきたない野心によって息の根を止められ、慈悲は憎悪の手によってここから追い払われる、不正が大手を振ってまかり通り、公正は陛下の領土から追放される。
シンコックスという盲目の男の目が見えるようになるというセント・オールバンスでの奇跡では、グロスターが欺瞞に対して毅然と立ち向かい、真実を見極める優れた目を持っていることが表現されています。シンコックスの言葉を素直に信じるヘンリー六世、口を閉ざして見守るままの諸貴族たちのなか、その欺瞞を鮮やかに暴くグロスターは、真の正義の人として映ります。グロスターがサフォークへ向けた「しかしサフォークの奇跡のほうが鮮やかだった」という言葉は、私欲に走る貴族たちすべてへの皮肉が込もっており、貴族たちがグロスターの存在は自分たちの私欲達成において実害を齎すと確信する場面でもあります。
ウォリックは、剛将トールボットやグロスターに継ぐ、イギリスを支えようとする資質を持った人物ですが、第二幕第二場においてヨーク公と結びついたことで、国内を愛国心から守護しようとする人物は、もはや居なくなり、イギリス内の分裂が決定的となりました。この展開は、物語だけでは見られない実際的な、世相の動きに人物は流されるということを如実に表現し、歴史がこれを裏付けるといったような理解ができます。
第二部最終幕でのヨークは、貴族たちの私利私欲による陰謀合戦を終わらせ、ヘンリー六世への明確な内乱を表明し、イギリスを新たな時代へと進めるために動き出します。ヨーク公は野心家ではありますが、私利私欲に走る悪党ではありません。彼はヘンリー六世の治世によって秩序を失った王国を、蘇らせようとする使命を自身で持っていました。セント・オールバンスの戦いにおけるクリフォード父との対決における「お前が俺の不倶戴天の的でなければ、お前の勇敢な振る舞いに惚れているのにな。」「天よ、み心のままに、彼の魂に平安を授けたまえ!」といった台詞によって騎士道を垣間見せます。これはヘンリー五世の系譜というより、君主の資質とも言えるものを見せていると考えられます。しかし、この対決でヨーク公はクリフォード息子の憎悪を生み、心は復讐に支配され、新しい世代の歪んだ精神を生み出します。これが、第三部の主題へと繋がっていきます。
そして、記事は第三部へと続きます。