RIYO BOOKS

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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『芸術作品の根源』マルティン・ハイデッガー 感想

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こんにちは。RIYOです。

今回の作品はこちらです。

 

実存哲学における代表的なドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの後期における思索の転換的作品『芸術作品の根源』です。

芸術作品は、日常生活に回収される道具と異なり、世界と大地との亀裂の狭間に真実を顕現させる。哲学の「別の原初」を指し示し、ハイデッガー後期思想への「転回」を予示した記念碑的作品。
ゴッホの農夫の靴やギリシアの神殿など具体的な芸術作品の分析を通して、後期ハイデッガーを予示する新たな真理観、存在論が展開される最重要作品の新訳。ガダマーの解説付き。

 

存在と時間』を代表として、現象学を昇華し形而上学と実存哲学を世に広めた最重要人物の一人であるハイデッガー。彼の哲学者人生の後半に差し掛かる際の転換的な思考変化を、1935年から行った講演を元に出版物として刊行された『杣道』、その中に収められた『芸術作品の根源』は「物と作品」「道具と芸術」の違いを発端に論考を進めていきます。

 

芸術それ自体が謎である。謎を解くという要求は筋道を外れている。謎に遭遇することが課題となる。

後記の冒頭に述べられるこの言葉は、この書で論ぜられる「芸術の存在」という複雑な論考対象をあらわしています。ハイデッガーは「芸術」「芸術家」「芸術性」「芸術作品」を別の性質として捉え、紐解いていきます。

作品とはアレゴリー(寓意)であり、シンボル(象徴)であると示す彼の論旨は、芸術性を含んだもののみを「芸術作品」と呼ぶことにあり、その他のものと区分けを行います。農夫が農作業に使う鍬、鋤、靴、などある事をなす為に使用される「道具」としての「道具性」を明示し、これらには寓意性が含まれていないということから、「作品」との差別化を行います。

「道具」ー寓意性ー「作品」ー芸術性ー「芸術作品」

このように並べることができます。そして「芸術作品」に包含される芸術性を芸術作品から読み取ることは、創作する芸術家の、或いは芸術家のおかれる時代や情勢の把握を行ってこそ理解できるのであり、感じることができるのだとしています。

また、芸術性を持たず寓意性のみを含ませた「作品」は、「道具が道具足り得る要素」(実用性)もなく、「芸術が芸術足り得る要素」(芸術性)もないものであり、一時の快楽要素を与える娯楽物に過ぎないことを説いています。

そして言葉による芸術にも同様のことが言えます。哲学は道具ではない。哲学を訴える文学もまた道具ではない。哲学のない小説作品は娯楽の道具である。

 

芸術とは真理がそれ自体をー作品のー内へとー据えることである。

芸術は真理を発源させます。この芽生えた、発見した「真理」を、芸術家が芸術作品へ据えることが、芸術作品の創作に他なりません。真理は「詩作」によって生まれます。芸術とは「詩作」です。詩作は真理の「樹立」です。

芸術家が詩作し真理を芸術作品の内へ樹立すること。これこそが芸術作品の創作と言えます。

芸術作品の根源、すなわち同時に、或る民族の歴史的現存在を意味する、創作し見守る者たちの根源は、芸術なのである。そうであるのは、芸術がその本質において根源だから、つまり真理は存在するようになり、歴史的になる或る卓越した在り方だからである。

 

ハンス・ゲオルク・ガダマーが『導入のために』という解説文でこのように述べています。

誰もが直視せざるをえないのは、なんらかの世界がそこで立ち現れるような芸術作品の内では、それ以前には認識されなかった意味深いものが経験できるようになるだけでなく、芸術作品そのものとともに何か新たなものが現に存在するようになる、ということである。このことは一つの真理の暴露ということに尽きるのではなく、むしろそれは一つの出来事でさえある。
言葉の作品は、存在のもっとも根源的な詩作である。あらゆる芸術を詩作と考え、そして芸術作品が言葉であることを暴露する思索は、それ自体、なお言葉への途上にある。

 

また、哲学者の高田珠樹さんも『芸術論へのたくらみ』という解説で以下のように語っています。

芸術作品は、それを創造する者だけでなく、それを見守り保つものを必要としていると述べている。作品によって形の中に凝結する亀裂は、それに眺め入り、そこに引き入れられる者を求めてもいるのである。見守る者、作品の呼びかけに応答する者を抜きにして、その作品は成立しえない。ここで、あくまで芸術に即して述べられている事柄は、実は、『存在と時間』の中で語られていた、一個の実存が自分の置かれた状況を背負い受けるのを決断することを通じて、民族の共同体が歴史生起として成就するという一連の主題群と無関係ではないだろう。

 

芸術家と見守る者、互いを繋ぐ「芸術作品」は据えられた真理の同調で強化され、共鳴し、一つの思想が構築されて世界へ影響を及ぼしていく。
芸術作品に対する受け取り方が変わる本書。未読の方はぜひ、読んでみてください。

では。

 

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