RIYO BOOKS

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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。


ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』感想

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こんにちは。
RIYOです。

今回はこちらの作品です。

 

ガブリエル・ガルシア=マルケス予告された殺人の記録』です。
コロンビアのジャーナリストであり、マジックリアリズム文学の先駆者です。1982年にノーベル文学賞を受賞しています。

町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた、幻想とも見紛う殺人事件。凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。

この作品は彼の言う「ジャーナリズム作品」のひとつです。1951年に起きた事件を元にマジックリアリズムを纏わせ、フィクションとして書き上げました。しかし発表されたのは1981年。本書に書かれているとおり、30年の歳月を経て世に出ました。これは本来「ルポルタージュ」として発表を予定していましたが、彼の身近な人が関わりすぎていた為、発表できませんでした。関係者が故人となってようやく「小説」として完成しました。

 

この作品はカフカの『変身』に影響を受けています。全てが過去を語りながらも、その時系列は都度組み替えられ、あらかじめ希望を抱かせないことで悲劇を紐解くことにフォーカスされていきます。そしてこの記録は5つの章で分けられています。

  1. 事件の概要
  2. 事件以前の町
  3. 事件当日
  4. 事件のその後
  5. 事件の詳細描写

時系列が分解されますが、悲劇を紐解く「推理小説的要素」の観点からは理解しやすい順序となっています。これは正に「ルポルタージュ的構成」で、まさに「記録」と言えます。

 

物語は、国の英雄の息子が、町娘に一目惚れし婚姻を申し込む。そしてその婚礼直後に処女で無いと判明し実家へ戻され白紙となる。この相手が移民のハンサムな息子であると町娘が証言し、町娘の家族である双子の兄弟が名誉の為殺害を決意する。この決意を町中に表明しながら移民の息子を探しだし犯行に及ぶ。

 

■物語的解釈

双子の兄弟が町中を歩き、移民の息子の行方を尋ねる際、かならず犯行を表明しているにもかかわらず、つまり町中が犯行が行われることを知りつつ誰も止めませんでした。言い分としては「双子が酩酊状態にあったから」「人柄からして本気と思えなかった」など。ですが、他の要素を組み合わせて考えると少し違ったものが見えてきます。

この町には「司教」が度々船で訪れます。町人は歓迎モードで迎えますが、司教は決して船を降りません。これは「この町が清らかであると思われていない」ことの表現で、いわば見放された町であると言えます。そんな町に、息子と言えども国の英雄に関わる人物が訪問し、ましてや婚姻を申し込むという事件は町にとって「ある種の栄誉」であったように感じられたのではないでしょうか。それが結果、恥をかかせて町の栄誉を頓挫させてしまったことに「何らかの体裁を保つ手段」を町は欲していたように思います。これの犠牲となったのが犠牲者の移民の息子だったのです。

 

ルポルタージュ的解釈

ですが、大事な要素として「この事件は事実を元に」描かれているということです。ガルシア=マルケス自身の身内や知人が関係したこの事件、彼はどう感じたのでしょう。もっと言えば、この事件をどう伝えたかったのでしょうか。

様々な偶然が重なった悲劇として描かれていますが、様々な偶然を重ならないようにすることは、双子に出会った町人たちは幾分か防ぐことが出来たのではないでしょうか。彼はこの点を訴えたかったのではないでしょうか。
「犠牲となっても仕方が無い」という感情への怒り、「さほど気にしない無関心」への恐怖、小さな社会であるからこそ浮き彫りになる人間性を描写しているようです。

「あの子はあたしのいのちでした」

犠牲者である移民の息子の母親の台詞です。

 

以前紹介した『紙の民』にて、マジックリアリズムに少し触れました。ラテンアメリカで栄えたこの技法は滑稽さが滲み、本来的に重い雰囲気を和らげてくれています。また、ルポルタージュを否定するための手法とも捉えることが出来ます。

この作品はガルシア=マルケス自身が「最高作」と自負するものです。
百年の孤独』だけでなく、こちらの作品もぜひ読んでみてください。

では。

 

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