RIYO BOOKS

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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。


サキ『クローヴィス物語』感想

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こんにちは。
RIYOです。

今回の作品はこちらです。

 

 

20世紀初頭のイギリス文学界において、英国の教科書にも活用されるほど大変有名な短篇作家です。アメリカのオー・ヘンリーと比較され、優れた作品群は現代でも楽しく読むことができます。

皮肉屋で悪戯好き、舌先三寸で周囲を振りまわす青年クローヴィスの行くところ、つねに騒動あり。「トバモリー」「名画の背景」「スレドニ・ヴァシュタール」「運命の猟犬」他、全28篇を収録。辛辣な風刺と残酷なユーモアに満ちた“短篇の名手”サキの代表的作品集を初の完訳。序文A・A・ミルンエドワード・ゴーリーの挿絵16点を収録。

 

サキは旧イギリス領ビルマ(現ミャンマー)で生まれます。父親と同様にインド帝国警察に勤めますが、マラリアに罹り退職。祖母の住むイギリスでジャーナリストとして歴史書を手がけ、特派員記者として海外を巡ります。そこから帰国後、執筆活動に専念し、次々と作品を生み出していきます。

 

彼の作品には「痛烈な皮肉」と「貴族的な冷笑」とが入り混じります。この特徴はオー・ヘンリーの大衆的で情緒溢れた作風と対照的であると言えます。代表作のひとつ『トバモリー』は、これらの特徴を存分に含んだ「サキらしさ」を感じさせてくれる作品で、「貴族の醜さ」をまざまざと風刺しています。

 

『クローヴィス物語』の各作品の中で、人々へ悩みの種を振りまく狂言回し役「クローヴィス・サングレール」。彼の行動は関わる人々へ災難だけを届けます。彼の名前の由来は、残虐淫乱なフランス・メロヴィンガ朝創始者「クローヴィス」と、フランス語で血まみれを意味する「サングレール」で、まさにうってつけとなっています。

 

サキの作風において「軽んじられる死」の描写が多々あります。これは被害者の身分に関係なく、登場人物たちは比較的関心が薄く描かれています。もちろん、風刺表現に重きを置いているため、死の描写を丁寧に書くわけにもいかないという理由もあります。ですが、自分の死に対する恐怖は詳細に描かれるのに(『運命の猟犬』など)、他社の死には悼む心すら感じづらいシーンが散見されます。これは当時の貴族社会に蔓延していた「腐敗した精神」を表現しています。サキは当時の社会、或いは国政に対してある種の憎悪の心が存在していました。

 

彼は同性愛者でした。当時イギリスでは「ソドミー」(不自然な性行動)は重罪とされており、生まれつきの致し方ない精神性であるにもかかわらず、肩身の狭い暮らしを余儀なくさせられます。そのような国の在り方に対して、心の底では「鈍い憎しみ」が慢性的に澱となって沈んでいました。彼が新聞や雑誌に掲載する意図は、「国民への訴え」であり、その内容は「国への批判、社会への批判」が根底にあるがため、辛辣な作風の風刺作品が多く生まれたと考えられます。

収録されている『閣僚の品格』はかなり直截的に政治風刺を行っており、現代にも通用する鋭い作品となっています。

いくら国家の指導者をまったく私心のない天使でケーぺニックしたところで、一般大衆のレベルが元のままなら片手落ちに終わるというのを見落としていたらしい。

「ケーぺニックする」とは、1906年、ドイツのケーぺニック市で靴職人が陸軍大尉になりすまして市庁舎を占拠した事件に由来した動詞です。不思議なチカラを持った公爵が国の要人を次々に「天使」にすり替えていき、政治を良くしようとする話です。

 

サキは第一次世界大戦争が勃発すると、志願兵として出征します。年齢から仕官の地位を勧められますが、一兵卒を望みます。この選択からも国に還ることに固執していなかったことがうかがえます。彼はほどなく軍曹となり、部下を持ちます。その部下の一人がドイツ軍の潜む地域で煙草に火をつけました。火や煙がターゲットになると考え、「その煙草を消せ!」と叫んだ瞬間に、彼の喉をドイツ軍の銃弾が貫きました。

この皮肉な結末は、彼自身が聞き及んだ話であったなら、作品に取り入れたことでしょう。

 

皮肉に溢れ、シニカルな台詞が溢れている戯曲のような味わいの短篇集。思わず口元が緩んでしまうような作品も多数あります。
ぜひ、読んでみてください。

では。

 

 

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