RIYO BOOKS

RIYO BOOKS

主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『沈黙の春/センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン 感想

f:id:riyo0806:20210626223358p:image

こんにちは。RIYOです。

今回は二作品をまとめてご紹介します。

 

環境運動の先駆けとなり全世界へ影響を与えたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』、その自然を見つめる感性の必要性や重要性を次代へ託す『センス・オブ・ワンダー』です。

沈黙の春

自然を破壊し人体を蝕む化学薬品。その乱用の恐ろしさを最初に告発し、かけがえのない地球のために、生涯をかけて闘ったR・カーソン。海洋生物学者としての広い知識と洞察力に裏づけられた警告は、初版刊行から四十数年を経た今も、衝撃的である。人類は、この問題を解決する有効な手立てを、いまだに見つけ出してはいないーー。歴史を変えた20世紀のベストセラー。待望の新装版。

海洋生物学者であったレイチェル・カーソンは四十五歳でアメリ内務省の官職を離れ、エッセイストとして執筆に専念します。彼女の知識と経験によって書かれるエッセイは瞬く間に合衆国中を魅了し、ベストセラー作家として名を馳せます。
ある日、友人から彼女へ手紙が送られてきます。

役所が殺虫剤のDDTを空中散布した後に、庭にやってきたコマツグミが次々と死んでしまった。

コマツグミは胸がオレンジ色のスズメの仲間です。カーソンはこの手紙をきっかけに四年もの期間をかけて『沈黙の春』を執筆します。

 

過去のエッセイでは自身の知識や経験を元に執筆できましたが、今回は膨大な資料と各方面の研究者たちへ協力を仰ぎながら書き上げることになりました。まえがきの謝辞には20名以上ものさまざまな研究者たちの名が連ねられます。

第一の章では「明日のための寓話」が展開されます。アメリカのある山奥で生命にあふれた町がありました。自然の中に人間が家を建て、井戸を掘り、家畜小屋を建て、住み着いた町です。ある時突然、平和であった町に恐ろしい異変が起こります。若鶏は病気になり震え、家畜の牛も羊も病気になり、あげく全ての動物が死に絶えます。そしてこの病気は人間にも襲い掛かり、年齢問わず死にゆきます。草や木は枯れ、花も全て散っています。そして自然は沈黙します。

本当にこのとおりの町があるわけではない。だが、多かれ少なかれこれに似たことは、合衆国でも、ほかの国でも起こっている。

 

執筆のきっかけになった手紙のとおり、殺虫剤が原因でコマツグミが死んだことは事実でした。DDT(dichloro-diphenyl-trichloroethane)とはドイツで合成された化学薬品です。これには強力な殺虫効果があると、スイスの科学者パウルミュラーが発見しノーベル賞を受賞しました。しかし、このDDTという薬品は大変危険で少しの認識不足で人々を死に至らしめます。

DDTだけでなく、クロールデン、ヘプタクロール、ディルドリン、アルドリン、エンドリン、パラチオン、マラソンなど、次から次へと強力な劇薬は生み出されていきます。これらは人間を含む生物にとって「毒薬」であるのです。
川の水に撒布されればたちまち「死の川」となり、魚たちは死滅します。土壌に撒布されれば「死の土壌」となり、虫や植物、小動物が息絶えます。また汚染された生物を大型動物が食べた場合、死に至ります。しかも毒素の濃度は凝縮され、より多くの致死量を摂取することになります。

 

沈黙の春』が出版された1962年は、アメリカでは産業が急成長し、「上空からの農薬撒布」を合衆国主導で行われていました。前述の「毒薬」は防虫剤、殺虫剤、除草剤などに使用されていました。そして実際に「死の川」「死の土壌」が量産され、植物や虫、大小の動物たちが毒に侵され死に絶えます。そして人間にも病気を及ぼし、死者も多数出ました。この危険性を研究者たちは合衆国の農務省へ訴えますが、産業による恩恵を重視し意に介さず、結局意見を聞き入れませんでした。

 

合衆国政府が事前に危険性を実証せずに、危険極まりない薬品を「人の住む上空から」、多くの同意していない、或いは知らされていない人の上に撒布した事実が何より恐ろしく感じます。同時に、土壌への、植物への、水への、動物への、多くの被害を認めず、知らぬ顔を通す「非人道性」にも怒りを覚えます。営利主義、忖度、統べるに値しない者の無責任な所業が、地獄と見紛う景色を作り出すのです。

農務省の役人たちは私の本を痛烈に非難しました。読んでもいないくせにね。

しかし、この「告発の書」の声は、ケネディ大統領の元に届きます。それを受け、「農薬成分の追跡調査」「危険性の調査」「食物連鎖の農薬残留性」など、多くの研究が行われます。そして「ストックホルム会議」と呼ばれる国際連合人間環境会議の開催にまで至ります。

 

問題の解決案として最後の章に「べつの道」としてカーソンは述べています。化学薬品による殺虫剤撒布は効果としても散々でした。対象とした「害虫」を駆除しようとしたところ、それを退治する「益虫」を駆除してしまい、逆に被害が大きくなってしまったのです。これに対し、対象とする「害虫」を研究し、効果的な「益虫」(或いはそれに変わる植物など)を放ち、「自然の力」で解決しようと言うのです。

こうした暴力のために、森の社会は、完全に均衡を失っている。害虫がひき起す災害は、周期的に起り、その頻度はますますひどくなってくる……化学薬品スプレーという反自然的な破壊行為はもうやめなければならない。いまなお自然と呼べるものがわれわれの周囲にいくらかでも残っているとすれば、森林はわれわれに残された最後の、かけがえのないものなのだ。

ドイツの森林官であるハインツ・ルッペルツホーフェン博士の言葉です。

センス・オブ・ワンダー

子どもたちへの一番大切な贈りもの。美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性〔センス・オブ・ワンダー〕を育むために、子どもと一緒に自然を探検し、発見の喜びに胸をときめかせるーー

雨、雪、虫、星、風、月、苔。自然の持つ奇跡的な力は、われわれの生活に近すぎて気づかない。好奇心が絶え間なく生まれる幼い頃には、これらの奇跡が「感動」として残り、生命観を豊かにします。この「ごく身近にある奇跡」を改めて気づかせてくれるエッセイです。

 

彼女は手紙を受け取ります。太古から存在する常に新しい海辺に訪れたい、という好奇心の情熱に溢れた手紙です。差出人は八十九歳の女性。好奇心の情熱は「生命の活力」として注がれ、生命そのものを輝かせることに、改めて気づかされます。

 

カーソンは『沈黙の春』執筆中にがんに侵されます。書き上げ、出版した後もその社会的な反響で身も心も疲労します。そのような中で、彼女にとって非常に大切な存在である甥のロジャー(姪の息子・姪孫)との時間を大切にします。そして大自然に囲まれた別荘でロジャーと共に自然に触れ、二人で「センス・オブ・ワンダー」を育み、自然からエネルギーと幸せを感じ、受けとっていたのです。

 

彼女は自分の命はもう長くないと心得、最後の仕事として『センス・オブ・ワンダー』に着手します。元々1956年に雑誌へ掲載していたエッセイで、これを単行本に昇華しようとしたのですが、天命尽き、1964年に永眠します。

もし、私が、私を知らない多くの人々の心のなかに生きつづけることができ、美しく愛すべきものを見たときに思いだしてもらえるとしたら、それはとてもうれしいことです

死を目前にしたレイチェル・カーソンの友人へ向けた手紙の一文です。

 

彼女から受け取ったメッセージは、「センス・オブ・ワンダー」を感じるたびに思い起こし、生命の活力としてわれわれの命を生かせてくれるのだと、そう思います。

 

出版から時が経っていますが、今でも多くのことを省み、考えさせられる作品です。未読の方はぜひ、読んでみてください。

では。

 

privacy policy