こんにちは。RIYOです。
今回はこちらの作品です。
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『人間の土地』です。訳は詩人の堀口大學。郵便飛行士としての体験を元にしたエッセイで、アカデミー・フランセーズ賞を受賞しています。
職業としての初飛行から、砂漠へ不時着遭難まで職業飛行家としての体験が8編にわたり描かれている。これらを一貫するテーマは「人間の本然」あるいは「人間の本質」であり、堀口大學さんの美しい文章で綴られていきます。
堀口さんは訳者あとがきにて、「人道的ヒロイズムの探求」が本書の根本想念をなしている、と述べてらっしゃいます。
当時の飛行環境は現在のそれとは違い、安全の保証など何処にもなく航空路も不安定で、まさに命懸けの職業でした。飛行目的は「郵便」。世界的な利便性の発達です。船でしか届けることが出来なかった郵便物を飛行機で早く届けることが出来る、そんな目的を持った職業でした。世の為、ひとの為に命を懸けて飛行する。これこそヒロイックな職業と言えます。
作中での「生命」「夢」「誇り」「意義」が、実体験による臨場感と興奮で伝えられます。目の当たりにする死、僚友の生命、絆と誇り、そして自らに対する危険。体験したからこその景色や温度は読者へとんでもない説得力を持って語りかけてきます。
この職業に誇りと夢を描くことが出来る人物こそ、当時の飛行士としての資質であったのではないでしょうか。テグジュペリも例外ではなく、自己犠牲による名誉的幸福を感じる人であり、空の雲・光・星に浪漫を抱く人でした。
『人間の土地』は、物質的利益や、政治的妄動や、既得権の確保にのみ汲々たる現代から、とかく忘れがちな、地上における人間の威厳に対する再認識の書だ。
堀口さんはこう説いています。眼前の利益や欲望に身を委ね、危機から身を守ることは人間としてのある種「本能」であると思います。ですが、人間として生まれたからこそ出来ること、すべきこと、またこれを探求することが人間の「本然」ではないかと思います。
本文中でテグジュペリはこのように述べています。
この本質的なものを引き出してくる試みとして、しばらく、人さまざまな相違を忘れることが必要だ。なぜかというに、これは一度認められるとなると動かしがたい多数の本然を、コーラン一冊分ほども将来し、それに立脚する狂信までも将来するからだ。
相対する思想を持つもの、立場の相反するもの、趣味志向の反するもの、すべてを含め「人間」であり、総括したものを俯瞰して考えることが「本然」として考えることである、このようにして初めて「人間の本然」を見出すことが出来る、そのように考えられます。
たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる、そのときはじめて、ぼくらは平和に生き、平和に死ぬことができる、なぜかというに、生命に意味を与えるものは、また死にも意味を与えるはずだから。
テグジュペリは、1944年7月31日、フランス解放戦争に従軍中、偵察目的で搭乗し、行方不明となりました。
『星の王子さま』で有名な「行動主義文学の作家」の今回の作品。読後に晴れやかな気分にし、脳内を綺麗に片付けてくれます。
未読の方はぜひ読んでみてください。
では。