RIYO BOOKS

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主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。

『ねじれた文字、ねじれた路』トム・フランクリン 感想

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こんにちは。RIYOです。

今回はこちらの作品です。

 

短編集『密猟者たち』が有名なトム・フランクリン。今回の作品『ねじれた文字、ねじれた路』は長編です。

この小説は、一言でいうなら、親友同士だった白人と黒人の少年が疎遠になり、二十五年後、一人の少女の失踪事件を契機に再び向き合う物語である。

このように解説の池上冬樹さんは仰っています。

 

舞台はアメリカのミシシッピ州シャボットという片田舎で、道路の舗装もままならない、いわゆる「南部」の話です。

M、I、ねじれ文字、ねじれ文字、I
ねじれ文字、ねじれ文字、Iひとつ
こぶの文字、こぶの文字、Iひとつ
ーーーアメリカ南部の学童は、こういうふうにミシシッピ(Mississippi)の綴りを教わる

原題は『CROOKED LETTER, CROOKED LETTER』。こちらの方が本内容を直接的に表現しているように感じます。本作は、白人の子「ラリー」、黒人の子「サイラス」の二人の視点で描かれます。

父親の自動車整備の仕事を継いだラリーは町の鼻つまみ者でした。当時十六歳だった彼は近所に住んでいた少女の失踪事件に深く関わっていると見られ、犯人ではないかと疑われていました。一方のサイラスは、治安官として保安官の補佐を行い、少年時代から野球のヒーローで町の皆から愛されていました。

この対照的な彼らは性格や境遇も正反対に描かれます。しかし彼らは惹かれあい、隠れて二人で秘密裏に会って遊び、何度も冒険をしました。ジャングルのような森での釣りや、銃を持ち出しての危険な背伸びをした遊びなどを体験します。

 

そのような彼らが、あるきっかけで疎遠になって行きます。そして一方は鼻つまみ者へ、一方は野球のヒーローへと成長し、対比的な境遇へと変化します。二十五年後、ある少女の失踪事件が起こります。「まただ」と町の皆は思い、治安官であるサイラスは疑われるラリーを調べる矢先、ラリーは銃弾に倒れてしまいます。

作風としては『スタンド・バイ・ミー』にミステリー要素を添えたような印象です。過去と現在を行き来する描写、進行速度が大変読みやすい作品とさせています。アメリカ文学の独特なリアルの表現でおる「人種」「銃」「治安」「色情」が世界に没入させてくれます。

 

ラクターは雑草や野の花を押し分け、マルハナバチ、蝶、ずぶ濡れのバッタ、母親が南部の方言でスネークドクターと呼んでいたトンボを飛び立たせた。

序盤の一文ですが、この丁寧な文章が最初から最後まで続くため、情景がありありと伝わり、一頁一頁が心にくっきり刻まれていきます。

 

少年少女の時代にあれだけ仲が良かった友人となぜか疎遠になってしまった経験はないでしょうか。もちろん、家庭の事情もあるでしょうし、大きなきっかけがあったかもしれません。

「あの時、ああしていれば違ったかも知れない」この作品はこういったシーンが多々出てきます。そしてその都度、自身のノスタルジーを刺激します。

 

「もう遅い。そうだろう、ラリー。遅すぎる。」

あるシーンのサイラスの心の言葉です。元に戻すことは出来ないかもしれない、でも未来はまだ何も決まっていない、これから変えていくことが出来る、変わっていくことが出来る、読後にそのような思いを抱かせてくれます。

 

2011年度、英国推理作家協会賞(CWA賞)ゴールドダガー賞(最優秀長篇賞)を受賞したこの作品は、ミステリーでありながら人間の心の美醜を主軸に描かれており、読者に過去の切ない感情を掘り起こさせて、強いノスタルジーを感じさせます。

 

非常に読み進めやすい作品ですので、未読の方はぜひ読んでみてください。

では。

 

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